今や人類の宇宙開発を担っているといっても過言ではないのが、スペースX社の宇宙船スターシップです。
火星への有人飛行を目標としているスターシップには、多くの人が期待を寄せています。
しかしながら、その開発は苦難の連続。
この記事では、そんなスターシップの成功と失敗の歴史、さらに今後の打ち上げ予定についてご紹介します。
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スペースX社の宇宙船スターシップとは
スペースX社がスターシップの開発を発表したのは2016年のこと。
当初はマーズ・コロニアル・トランスポーター(MCT)という名前でした。
そこからインタープラネタリー・トランスポート・システムやビッグファルコンロケットなどと改名を繰り返し、2018年に現在のスターシップという名前がついています。
そんなスターシップの最大の魅力は、着陸によって再利用が可能であること。
従来はロケットの部分が使い捨てであったため、打ち上げコストが高くなるというネックがありました。
一方、スペースX社ではスターシップは、宇宙船にあたるスターシップとロケットにあたるスーパーヘビー共に着陸させて再利用できる設計になっており、打ち上げコストが大幅に削減されるのです。
スターシップの打ち上げから着陸までの流れ
スターシップの打ち上げでは、まずロケットにあたるスーパーヘビーの燃料が使われます。
打ち上げから約159秒後、スーパーヘビーのエンジンは中央の3基を除いて停止。
同時に、宇宙船であるスターシップが自身のエンジンを点火し、スーパーヘビーから分離します。
その後、スーパーヘビーは着陸の準備を開始。
回転してから10基のエンジンを再点火させ、逆噴射しながら発射場を目指します。
最終的に発射台に備え付けてある2本のメカニカルアームでキャッチされれば着陸成功です。
一方、分離後のスターシップは6基のエンジンを使って加速し、軌道に乗ります。(必要であれば軌道に乗ってから燃料補給を受ける)
スターシップが大気のある地球や火星に着陸する場合は、熱シールドを使いながら減速。
地面に対して60度の角度を保ちながら降下していきます。
そして、着陸直前にエンジンを再点火し、機体を垂直に戻して着陸する仕組みです。
スターシップ、スーパーヘビー共に非常に高度な姿勢制御が必要となるわけですが、コストを削減して宇宙開発を容易にするには重要な技術といえるでしょう。
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スターシップの成功と失敗の歴史
スペースX社のスターシップは、試験飛行を行う度に少しずつ進歩してきました。
それは成功と失敗の繰り返しでした。
ここでは、そんなスターシップの成功と失敗の歴史を時系列に沿ってご紹介していきます。
高高度試験時代
年月 | 内容 |
2019年1月 | スペースX社が「スターホッパー」と呼ばれる最初の試験機を作り上げる。 |
2019年8月 | スターホッパーは高度150mの飛行と着陸に成功。 |
2019年9月 | 新たな試験機「スターシップMk1」が公開されるも、2019年11月20日に行われた燃料タンクの加圧テスト中に破裂が原因で爆発。
この失敗(スペースX社は失敗ではないと主張)をうけて、試験機スターシップMk2は製造中止。 代わりに「スターシップSN1」と改名したスターシップMk3の改良と製造を開始。 |
2020年2月 | スターシップSN1による燃料タンクの加圧テストが実施されるも、またも破裂が原因で爆発。
その後、SN2、SN3も同じテストで爆発。 |
2020年4月 | スターシップSN4が初めて加圧テストに成功。 |
2020年5月 | スターシップSN4は高度150mの飛行試験を行う予定だったが、ラプターエンジンを搭載しての燃焼試験中に爆発。 |
2020年8月 | スターシップSN5が高度150mの飛行試験に成功。実物大の機体として飛行に成功したのは初。 |
2020年12月 | ノーズコーンと翼を搭載した完全な姿のスターシップSN8が、高度12.5kmの初の高高度飛行試験を実施。
打ち上げから再突入までは成功。 ただし、着陸は燃料タンクの減圧により失敗。 |
2021年3月 | スターシップSN10が高高度飛行試験からの着陸に成功。
ただし、着陸時の衝撃が強かったためメタンが漏れ出し、着陸から8分後に爆発。 |
2021年3月 | スターシップSN11が4回目の高高度飛行試験機で飛行に成功。
ただし、2番エンジン燃焼室で火災が発生し、空中で爆発。 その後、SN12~14は製造がキャンセルされる。 |
2021年5月 | スターシップSN15で初めて軟着陸に成功。
この成功をもって高高度飛行試験は終了。 以降、スーパーヘビーの地上試験と地上設備の改造が進められた後、軌道飛行試験へ。 |
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軌道飛行試験1回目
2022年3月、ロケットエンジンの推力が25%向上。
同年4月20日、スターシップとスーパーヘビーを結合しての初めての軌道飛行試験が実施されました。
この時、スーパーヘビーの離陸には成功したものの、スターシップの分離には失敗。
機体が高度39kmあたりで制御を失ったため、自動飛行停止システムにより爆破されました。
また33基あるスーパーヘビーのエンジンのうち、一部が作動しないという問題が発生。
さらに、発射台も大きく壊れてしまいました。
一見すると大失敗のように見えますが、この時の目標はあくまでもスーパーヘビーの離陸。
それが無事達成されたため、スペースX社の社員達は大喜びでした。
軌道飛行試験2回目
前回の失敗をうけて、発射台への水冷式ディフレクターの設置や分離機構のホットステージングへの変更が行われました。
そして2023年11月18日、2度目の軌道飛行試験が行われました。
この時、スーパーヘビーのエンジンは分離まで33基すべて作動。
さらに、スターシップの分離にも成功しています。
この点において、前回から大きく進歩したといえます。
しかしながら、高度148kmの宇宙空間に到達したスターシップは、軌道に乗る前に通信を途絶。
また、分離に成功したスーパーヘビーもすぐに爆発してしまいました。
軌道飛行試験3回目
2024年3月14日に行われた3回目の軌道飛行試験では、スターシップは予定していたエンジンの燃焼を達成し、計画通りの軌道に到達しました。
飛行中は推進剤の移送やペイロードベイの開閉試験にも成功。
地球を半周してインド洋上から大気圏へ再突入しました。
ただし、再突入中に機体が大破。(姿勢制御の問題か?)
スーパーヘビーも着水直前のところで爆発しました。
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軌道飛行試験4回目
2024年6月6日に行われた4回目の軌道飛行試験では、過去3回の失敗から学んだことを生かし、大きな成果を挙げています。
まず、スーパーヘビーはホットステージング用の分離機構の廃棄を行った後、メキシコ湾への着水に成功。
さらにスターシップも、インド洋への着水に成功。
この時のスターシップの損傷はフラップのみとあって、着陸成功にむけて大きな弾みとなったのです。
軌道飛行試験5回目
2024年10月13日、5回目の軌道飛行試験が行われました。
この時の目標は、スーパーヘビーの発射台への着陸でした。
結果は、見事成功。
スーパーヘビーは発射台に備え付けられたメカニカルアームによって、しっかりキャッチされています。
また、スターシップの方も予定どおりインド洋に着水。
その場所は目標地点にぴったりで、正確に制御された飛行だったことが分かります。
軌道飛行試験6回目
6度目の軌道飛行試験となった2024年11月19日はあいにくの強風。
そのため、スーパーヘビーの発射台への着陸試験は実施されませんでした。
一方、スターシップの方は順調に飛行し、前回同様正確な目標地点に着水しました。
また宇宙空間を飛行中にはエンジン再点火の試験にも成功しています。
軌道飛行試験7回目
7回目の軌道飛行試験では、改良型のスターシップが用いられました。
試験が行われたのは2025年1月16日(日本時間17日午前7時37分)のこと。
この時、スーパーヘビーは打ち上げから発射台への着陸まで問題なく成功しています。
しかしながら、スターシップは打ち上げから8分半後に通信が途絶。
やむを得ず自動飛行停止システムにより爆破されました。
本来ならば宇宙空間で貨物の展開を試みるはずだったのですが・・・
実際には前回まで出来ていた飛行と正確な目標地点への着水にすら失敗してしまいました。
これについてスペースX社は、「スターシップは上昇中に予定外の急速な分解に見舞われた」とし、「このテストデータを検討して原因を究明する」と発表しました。
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スターシップの今後の打ち上げ予定
7回目の軌道飛行試験が行われる前、スペースX社のイーロン・マスクは、「2025年はスターシップの変革の年になる」と宣言。
さらにスペースX社は、自社のホームページにて前年比約6倍となる25回の打ち上げ予定を発表していました。
ところが、7回目の軌道飛行試験は実質的に失敗。
さらに悪いことに、爆発したスターシップの破片が落下してきたことで、一時、航空機や船舶に影響が出てしまいました。
そのため、アメリカのCNNは、「次の打ち上げは米連邦航空局(FAA)の調査が終わった後になるだろう」と報じています。
実際、4~6回目までスターシップは連続で着水できていたわけで、7回目の軌道飛行試験で起きた通信途絶は明らかな失敗であり後退。
その原因が明確になり改善が施されない限りは、次の打ち上げ予定は決まらないでしょう。
まとめ
この記事では、スペースX社の宇宙船スターシップについてご紹介しました。
宇宙船の部分(スターシップ)だけでなく、ロケットの部分(スーパーヘビー)までも再利用できるのが、この機体の特徴です。
完成すれば大幅なコストダウンが見込まれ、宇宙開発が一気に加速するはず。
2025年2月の時点では成功と失敗の繰り返しですが、2019年のスターホッパーの試験飛行からみれば大きく進歩していることは間違いなく、期待は膨らむばかりです。
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